「後遺症」の疲労・痛み・ウツにも有効例が多い運動療法&温熱療法
前回までのコラムでは、「コロナ後遺症」との関連性を想定されている筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CSF)について、以前のSARSを始めとするウイルス感染流行との相関、免疫異常による自律神経機能の障害などの可能性について説明しました。
さらにME/CSFの治療に関して、実はすでに「日本に於ける筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CSF)治療ガイドライン」が存在し、散発的な取り組みに留まっている治療的アプローチについて、科学的エビデンスを集約しようとする動きが始まっています。
前回のコラムでは、このガイドラインに於いてグレードBまたはグレードCという、いわば「ほどほどの評価」を得ている治療法の例として、「抗うつ薬」および「漢方薬」を取り上げました。積極的に推奨はしないものの、「試す価値はある」という評価がなされたのです。
ME/CSFの症状は多岐にわたりますが、自律神経の機能不全やストレス耐性の低下などが関係しているとの見方から、これら薬物療法の有効性の根拠となっており、また実際に一部の症例かつ一部の症状ながら、一定の有効例が存在するのも確かです。
とはいえ漢方薬も含め、およそ薬物は効能を示す範囲が限られており、有効性には自ずと限界があります。また副作用や依存性の問題も考える必要があります。従って原因に対する根本的なアプローチを試みながら、補足的に薬物を用いるという節度が大切です。
次に挙げられている治療法が「段階的運動療法(GET)」です。これはリハビリテーション専門医や理学療法士などの指導のもとに、身体状況に適合した運動療法を行ない、さらにその強度を徐々に上げていき、体力や身体機能を向上させていくという治療法です。
ME/CSFに対するGETの有効性についての報告は欧米からのものが主体です。適切なGETにより疲労感や痛みなどの身体症状が有意に緩和したほか、ウツや不眠などのメンタル不調にも有効性が認められた、などという論文が幾つか報告されています。
但しME/CSF治療ガイドラインでは、GETは海外のデータが中心となっている事と関係し、運動療法という大がかりな治療法では、国による制度や施設、技術の相違が大きいため、我が国の事情に適合した運動療法を確立する必要性がある、と補足しています。
ところでGETも含め「運動」が疲労などの身体症状、それにウツなどメンタル不調に一定の有効性がある事は、日常的な臨床経験からも明確に指摘できます。実際に他の治療法と並行し適度な運動に取り組むと、症状の改善が促進される事は少なくありません。
適度な運動の効果は多方面に表われます。まず運動により血流が改善するため、筋肉痛などの痛みが軽減します。また心理的な要素の濃い疲労感の場合、体を動かす事によってストレスが発散され、心身の疲労が軽減してメンタル面でも良い影響が表われてきます。
例えば慢性の疲労と不安感、憂うつ感などを訴えている方が、血液検査で判明したビタミンB群欠乏など栄養バランスの乱れを是正しつつ、ウォーキングなど程よい運動を行なう事により、心身の疲労やメンタル不調の改善が早まる様な事例は、日常よく眼にします。
一方で運動療法には一定の注意も必要です。疲労感や痛み、憂うつ感、不眠などの症状が深刻な場合、不適切または過度な運動によって症状がむしろ増悪する危険性もあります。また栄養バランスの乱れが顕著な場合には、その是正が何より最優先となります。
さて、その次に挙げられている治療法が「和温療法」です。和温療法は摂氏60℃の遠赤外線乾式サウナルーム内で15分間にわたり体を温めて発汗し、退室後に30分間の安静保温をしながら充分に水分補給する、という保温を主体とする治療法です。
ME/CSF治療ガイドラインでは和温療法に関して、数名の日本人を含む研究者の臨床報告が掲載されています。幾つかの論文で和温療法は、ME/CSFの痛み、倦怠感、ウツ症状などに対して効果を認めた事例が多数あり、有効性があると結論付けています。
いずれの研究でも症例数が数件から数十件と少ないため、有意差を伴う有効性を証明できないため、治療ガイドラインではグレードCという「ほどほどの評価」に留まっていますが、論文を読んだ感触では、かなりの確率で和温療法が奏功していると考えられます。
和温療法がME/CSFの諸症状に対して有効な理由については幾つかの研究があり、脳血流を増加させる事によるという研究、微小血管の内皮細胞機能を改善させ、酸化ストレスを軽減させる事によるという研究などが紹介されています。
さて我々の日常感覚でも「体を温める」取り組みが、痛みや疲労感、憂うつ感など心身の不調に効果がある、という事は実感できるのではないでしょうか。多くの人が医師の勧めもないのに、疲れや筋肉痛を感じたら温泉やサウナに通うのは自然な習慣と言えます。
和温療法の他にも、各地の温泉では「温泉療法」などと称し、痛みや疲労、ウツ症状などの諸症状、それにアレルギーや生活習慣病などに対する温泉の有効性について症例を集めて分析し、一部では論文や学会発表など学術研究を盛んに行なっています。
蒲田よしのクリニックに於いても、一見してサウナルームと似た「ラドンルーム」を設置し、各種の体調不良や慢性疾患などの方々に対する治療に取り組み、優れた成果を挙げています。この「ラドン温浴療法」に関しては、稿を改めて解説したいと思います。
次回は、とりわけ重要な「栄養療法」について述べたいと思います・・(続く)