今年8月のお盆期間中に、ラドンの岩盤浴で有名な秋田県の玉川温泉を、1泊2日の日程で訪問しました。何と20数年ぶりの訪問です。蒲田よしのクリニックでは毎年7~8月に数日の夏休みを頂いていますが、今年はちょうどお盆期間(8月15日頃)に夏休みの一部が重なったため、その休日を利用する形で玉川温泉へ出かけました。

 

玉川温泉はラジウム含有量が日本有数の温泉で、ガンやリウマチなどの難病、原因不明の体調不良やメンタル不調などに効果があるとされ、全国から大勢の方々が集まっています。温泉に隣接する旅館には予約が殺到しており、特に春や秋の観光シーズンには、半年前から予約で満室になるなど人気が集中しております。

 

20数年ぶりの訪問と前述しましたが、前回の訪問は山形県在住中でしたので、玉川温泉は隣の県です。それでもかなり遠かったという印象がありました。秋田県北の国立公園である八幡平に隣接しており、たいへんな山奥です。それでも全国から難病患者などが多く集まっており、その高い評判には驚くばかりです。

 

最初に玉川温泉について知ったのは、それよりもずっと以前、高校生の頃です。出生地である岩手県一関市に住んでいて、やはり隣の県です。家族と親戚で八幡平にある後生掛温泉に宿泊し、その帰り道で玉川温泉の傍を通った時に、たいへんな混雑で道路が大渋滞でした。その時は「すごい温泉がある!」という印象だけが残りました。

 

初めて玉川温泉を訪問した20数年前は、山形県で勤務医生活を送っていました。血液内科医として白血病などの診療に明け暮れていましたが、ちょうど薬が中心の西洋医学に限界を感じ、自然治癒力を活かした治療法はないものか、と模索し始めた頃でもありました。そうした折に、玉川温泉の話を聞いて、強い関心を持ったものです。

 

病院勤務医は1週間の夏休みが取れたので、その期間を利用して家族で訪問しました。「玉川温泉」の宿泊はとても予約が取りにくいと聞いていたため、だいぶ早くから予約を入れようとしましたが、早くも満室でした。そのため少し離れた「新玉川温泉」の予約を試みたところ、何とか一泊分だけ予約が取れました。

 

玉川温泉に実際に行ってみて先ず驚いたのは、混雑ぶりは予想通りだったものの、全国からお客さんが集まっている事でした。駐車場は満車でしたが、車のナンバーが全国にわたっており、地元の「秋田」や「岩手」よりも、例えば東京の「品川」や「練馬」、それに「横浜」や「千葉」などの方がずっと多いくらいでした。

 

次に驚いたのは露天の「岩盤浴」でした。温泉施設から外へ出て硫黄の噴気孔が並ぶ「自然研究路」を15分くらい歩くと、3つほどの古びた小屋が並んでいました。その中で客はゴザを敷いて横になり、岩盤浴を行なうのです。問題はその人数です。一つの小屋の定員は10名あまりですが、小屋の前にはズラッと長蛇の列ができていました。

 

実は玉川温泉まで遠方から湯治にやって来る方々の多くは、この「岩盤浴」がお目当てです。玉川の岩盤浴からは非常に豊富な「ラドンガス」が湧出しています。もちろん内湯の施設はあり、強塩酸風呂という際立った特徴がありますが、ガンやリウマチなど難病の方々が目指してくるのは、内湯よりもむしろ、このような岩盤浴なのです。

 

ちなみにラドンガスが最も多量に湧出しているのは、このような行列ができる小屋の周辺ではない模様です。小屋から5分くらい離れた場所に「玉川神社」という小さな神社がありますが、その鳥居の傍は温かいガスが出ている訳ではないものの、常連さんたちがゴザを敷いて談義しています。彼らによると「ここが一番ラドンが多い」そうです。

 

温泉の食堂でも驚くようなお話を聴きました。昼食時の食堂も混雑しており、私の家族は栃木県のご夫婦と相席になりました。食事中に雑談となりましたが、ご主人がリウマチのため毎年2回ほど玉川で湯治し、岩盤浴によって痛みが完全に消えるそうです。勤務医の私にとって、岩盤浴でリウマチの痛みが消えるというのは大変な驚きでした。

 

そのような勤務医時代の玉川温泉に於ける体験もベースとなり、約20年前から「薬に頼らず自然治癒力を活かした医療」を目指し、様々な学習や発見を経て病院を退職、2011年に「蒲田よしのクリニック」を開業し、現在に至っております。その過程でラドン療法を習得し、クリニックではラドン療法を取り入れた診療を行なっております。

 

ラドン療法を活用した診療を行なうクリニックの開業準備を進める過程で、玉川温泉と共通する「ラドン温泉」である北海道の二股ラジウム温泉、山梨県の増冨温泉なども訪問しました。様々な形態のラドン温泉が存在し、多くの難病患者が湯治に訪問していることも学びました。日本にはこのような優れたラドン温泉が、幾つも存在するのです。

 

実は玉川温泉と「蒲田よしのクリニック」とは繋がりが出来ていました。クリニックを開業して約14年が経ちますが、玉川温泉へ湯治で訪れ、現地で私のクリニックを紹介されて来院された方が、これまで何十人もおられます。主として東京周辺の方々が玉川温泉で湯治中に、温泉の従業員からクリニックの存在を教えられ、やって来たのです。

 

さて今年8月に2度目の訪問となった玉川温泉では、新たな経験と学びがありました。暑い夏の時期は比較的すいているという情報があったため、ダメもとで申し込んだところ、何と「玉川温泉」旅館が予約できました。一泊分しか休暇が取れませんでしたが、行ってみたところ予想通りの混雑で、ほぼ満室でした。

 

すれ違う車や駐車場のナンバーを見ると、やはり全国から集まっていました。ザっと地元の秋田は3割程度で、近県の岩手や宮城など東北各県も3割、残りの4割は東京や大阪、北海道など全国からの訪問でした。特に泊まり込みの「自炊部」は大人気で予約が取れないそうですが、なおさら遠方の方々の訪問が目立ちました。

 

夕方早くチェックインして真っ先に室内岩盤浴でたっぷり汗をかいた後、強酸性の湯で有名な内湯に入りました。源泉は刺激が強過ぎるため「50%源泉」に入りましたが、それでも入って30秒もすると敏感な場所がピリピリ刺激となりました。真水の湯と交互に入り、蒸気風呂も楽しみ、たっぷり温まりました。

 

翌朝は早く起きて、自然研究路にある小屋で「岩盤浴」に取り組みました。早朝なのでスペースが空いていましたが、あっという間に満員となりました。小屋の中は硬い土が剝き出しになっており、そのため利用者はゴザを敷いて横になります。さほど地温は熱くありませんが、5分もすると汗が噴き出してきました。

 

利用者の顔ぶれを見ると老若男女様々で、恐らくご病気ではないかという方も少なからず見受けられました。定員10名あまりの小屋は3つあり、ラドン濃度が少し違うそうです。その方の体力や病状によって選べるようになっていました。中には小屋を「はしご」して、岩盤浴にしっかり取り組んでいる方もおられるようです。

 

小屋を後にして宿へ帰る「自然研究路」の周囲には、硫黄を含んだ高温ガスの噴気孔が方々に点在していました。噴気孔の近くは危険なため立ち入り禁止の表示があり、たいへん迫力のあるガス噴出の風景と音響が体に染み入りました。ラドンの豊富な岩盤浴もさることながら、この圧倒的に迫力のある大自然にも、癒されるのだと感じました。

 

この様な自然の恵みを体一杯に受けて帰る道すがら、ラドンを活用した診療体系のあるべき姿について考えを巡らせました。年に1回くらいは玉川の様な自然環境のラドン岩盤浴を楽しみ、普段は都市部にあるクリニックのラドンルームで治療に取り組む。そのようなメリハリのある複合的なラドン療法が、一つの優れた診療体系ではないかと感じました。

蒲田よしのクリニック