2020年の春から世界中で蔓延している「新型コロナウイルス」感染症は、外出自粛や飲食店の営業時間短縮、ワクチン接種の推進などの対策が取られていますが、相次ぐ変異ウイルス出現などの影響もあり、未だに収束する目処が立っていません。

そうした中、コロナ感染の後に全身倦怠感、不眠、憂うつ感、不安感、食欲不振、めまい、頭痛、動悸、息切れ、味覚および嗅覚障害、脱毛、集中力の低下など、多彩な症状に見舞われる方が、たいへん多くなっています。

そのような症状が数か月もの長期間にわたり続いた事により、日常生活や仕事に重大な支障が生じている方々が急増しています。深刻な体調不良のため仕事を休職している方も多く、中には寝たきりに近い状態という方も少なくありません。

このようなコロナ感染後に発生し、長期にわたり継続する一連の体調不良は、いわゆる「コロナ後遺症」として恐れられるようになりました。原因が今もって不明なために、周囲の理解が得られず、社会的に孤立している方々も多くなっています。

コロナ感染後に「後遺症」の症状に悩まされている方の割合は、正式な統計はないものの、およそ罹患者の50%前後の方々が、何らかの後遺症に見舞われているようです。後遺症の定義がそもそも難しいため、専門家によって解釈も様々です。

このような状況に危機感を抱き、コロナ後遺症に苦しむ方々を救済しようと、一部の病院やクリニックでは「コロナ後遺症外来」を標榜し、実際に診療の提供を始めています。中には問い合わせが殺到し、全国から患者が来院している施設もあります。

そのような病院やクリニックは、PCRや抗体検査などの他に、胸部CTなどの画像診断を中心とした除外診断を主として行なっている施設と、漢方療法や咽頭刺激療法などの治療を行なっている施設とに大別されている模様です。

検査がなぜ必要かというと、後遺症の症状は多岐にわたり、他の疾患との鑑別、すなわち「鑑別診断」が必要なためです。例えば呼吸苦が続いている方には、肺炎などを除外するため胸部レントゲンやCTなどの画像診断が必要となります。

次に治療的アプローチに関しては、原因不明という事情も相まって、有効性の証明された治療法が存在しないのが現実です。そのため各施設ともに知恵と工夫をしぼって、試行錯誤で治療的なアプローチを行なっている、というのが現状です。

「後遺症外来」を開設した医療機関は、ビジネス雑誌やYouTube等でも盛んに紹介されています。担当医師や受診した患者のインタビュー、診察やカウンセリング風景の動画、取材した編集者や記者などのコラムや批評なども載っています。

そのような情報を見る限り、来院した後遺症の患者に対しては、「検査結果は全て異常ありません」と説明したり、「○○という症状には△△というお薬を処方しましょう」と薬の服用を勧めたりするようなアプローチが主体である事が分かります。

具体的には、例えば動悸や不安感などの症状が続く患者には心電図や胸部レントゲン検査を行ない、不整脈や心不全などがない事を患者に説明した上で、例えば柴胡加竜骨牡蛎湯や黄連解毒湯など、動悸や不安感に有効な薬が処方されます。

これが動悸や不安感など単発の症状であれば、適切に選んだ薬が奏功して、症状が和らぐ可能性があります。しかし多くの場合、症状は多岐にわたり、一つや二つの薬だけでは体調が根本的に改善しない場合が多い事は、容易に想像できます。

このような診療風景は、実は私にとってデジャビュ(既視感)にあふれたものです。何故ならば、以前から私のクリニックには、他の医療機関で薬を中心とした治療を受けているものの、体調が改善しないと訴える患者が、ひきもきらないのです。

次回以降のコラムでは、コロナ後遺症が「原因不明」と言われながらも、具体的にはどのような複雑な要因を含んだ病態なのか、どのような治療的アプローチが有効である可能性があるのかなどについて、解説していこうと思います・・(続く)

蒲田よしのクリニック