美容医療の急速な拡大をどう考えるか? その背景にある人々の願いと医療界の課題
ここ最近、「美容医療」に関する記事を新聞や雑誌、SNSなどで目にする機会が非常に増えています。美容医療を専門とするクリニックの数や来院者数が急増し、そこに従事する医師も増加していること、さらに一般的な病院勤務医と比べて給与水準が高いことなどが、しばしば話題になっています。
一口に「美容医療」といっても、美容皮膚科や美容整形など、その内容はさまざまです。施術方法や治療方針にも多くの種類がありますが、簡単にいえば、病気の治療そのものではなく、美しさや外見の改善を主な目的とする医療全般を指しています。
実際に「美容」を掲げるクリニックは急速に増えています。雑誌や電車内の広告はもちろん、インターネットやSNSを通じた宣伝も盛んです。私のクリニックにも、「以前は〇〇美容クリニックに通っていました」と話される患者さんが少なくありません。
こうした美容クリニックの増加は、単に医療機関側の経営戦略によるものではありません。それだけ美容医療を求める人々が増え、社会全体で大きな需要が生まれていることの表れでもあります。実際、美容医療に関連する施術や化粧品、サプリメントなどを含めた市場も拡大を続けています。
では、なぜこれほど美容医療が求められるようになったのでしょうか。
もちろん、その根底には「美しくありたい」「若々しく見られたい」「自分に自信を持ちたい」という、人間にとって自然な願望があります。外見に対する意識は、自己肯定感や人間関係、社会生活にも影響します。美容医療を通じてコンプレックスが軽減され、前向きに生活できるようになったという方もいるでしょう。こうした価値を、単なるぜいたくや見栄として片付けることはできません。
さらに、2020年からのコロナ禍をきっかけに、オンライン会議やスマートフォンで自分の顔を見る機会が増えたことなども、美容への関心を高めた要因の一つと考えられています。
一方で、私が注目しているのは、美容医療を求める人々の中には、単に外見を美しくしたいという希望だけでなく、何らかの体調不良や健康上の悩みを抱えている方も少なくないということです。
皮膚は、全身の健康状態を反映する重要な臓器の一つです。栄養状態やホルモンバランス、睡眠、ストレスなど、さまざまな要因が肌の状態に影響します。そのため、肌の悩みの背景に、全身の健康上の問題が隠れていることもあります。
実際に、私が経営する「蒲田よしのクリニック」に来院される方から話を伺うと、以前に美容クリニックへ通っていたという方の中には、肌をきれいにしたいという目的だけでなく、疲れやすさや倦怠感など、身体の不調も何とかしたいという思いを持っていた方が少なくありません。
美容医療を受けたことで、肌の状態だけでなく気持ちや体調まで良くなったと感じる方もいます。その一方で、私のクリニックは美容医療を専門としていませんが、ラドンなどの治療を受けた結果、体調が改善するとともに肌の調子も良くなったと話される方がいらっしゃいます。
このような経験からも、外見の美しさと全身の健康は、決して切り離して考えられるものではないと感じています。
さて、美容医療の拡大に伴って、最近よく目にするようになった言葉に「直美(ちょくび)」があります。これは、医師が初期臨床研修を終えた後、一般的な診療科で専門研修を積むことなく、直接美容医療の分野に進むことを指す言葉です。
美容医療の世界では、一般の病院勤務医と比べて高い収入を得られる場合があり、若い医師にとって魅力的な進路の一つになっています。中には、一般的な勤務医の数倍の収入を得ている医師もいると報道されています。そうした成功例を見て、自分も美容医療の世界で働きたいと考える若手医師が増えているのです。
この現象に対して、最近は批判的な報道も目立ちます。特に問題視されているのは、美容医療へ進む医師が増えることで、内科、外科、産婦人科、救急医療など、社会に不可欠な一般医療を担う医師が不足するのではないか、という懸念です。
確かに、医師の偏在が進み、地域医療や救急医療などに必要な人材が確保できなくなれば、社会全体にとって深刻な問題です。この点については、医療界全体で真剣に考える必要があります。
しかし、ここで少し立ち止まって考えてみたいと思います。
美容医療を選ぶ人が増えていることと、一般医療の現場で医師が不足していることは、関連する側面があるとはいえ、必ずしも同じ問題ではありません。美容医療を求める人々には、それぞれの切実な願いや価値観があります。また、美容医療に進む医師にも、自分の専門性や働き方、収入、将来設計について考えたうえで、その道を選ぶ事情があるはずです。
医師の職業選択を、単に「お金目当て」と決めつけて批判するだけでは、本質的な問題は見えてきません。むしろ、なぜ若い医師たちが、一般の医療現場よりも美容医療に魅力を感じるのか、その背景を考えることが重要です。
もちろん、美容医療にも多くの課題があります。十分な経験や技術を持たないまま施術を行う医師、利益を優先して必要以上の治療を勧める医療機関などが存在すれば、医療事故や健康被害、金銭トラブルにつながります。美容医療は人の身体に直接関わる医療行為である以上、高い専門性と倫理観、十分な説明責任が求められます。業界全体として、医療の質と安全性を高めていく努力が欠かせません。
しかし、それと同時に、保険診療を中心とする一般医療が抱えている問題にも目を向ける必要があります。長時間労働、過重な責任、厳しい勤務環境、十分とはいえない待遇、患者さん一人ひとりと向き合う時間の不足など、医師が一般医療の現場で働き続けるうえでの課題は少なくありません。
本来、医師という仕事には、患者さんの健康を守り、病気や苦痛を改善するという大きな使命があります。しかし、その使命感だけに頼って医師に過度な負担を強いるような医療体制では、若い医師が将来に希望を持てなくなってしまう可能性があります。
美容医療の拡大を批判することは簡単です。しかし、そこで働く医師を批判するだけでは、問題の解決にはつながりません。なぜ美容医療がこれほど人々に求められているのか、なぜ医師たちがその分野に希望を見いだしているのか、そして、なぜ一般医療の現場が人材確保に苦労しているのか。それぞれの背景を冷静に見つめることが大切です。
美容医療と一般医療は、どちらか一方が優れていて、もう一方が不要というものではありません。人々の健康や生活の質を高めるという点では、双方に社会的な役割があります。
美容医療の安全性と質を高めること。そして、一般医療に携わる医師たちが、誇りと希望を持って働き続けられる環境を整えること。この両方に取り組んでこそ、これからの医療が抱える課題を解決する道筋が見えてくるのではないでしょうか。
蒲田よしのクリニック






