医師の「様子を見ましょう」という言葉には、専門家としての責任が伴います!
皆さんの中にも、病院やクリニックで検査結果の説明を受けた際、医師から「しばらく様子を見ましょう」と言われた経験のある方は少なくないと思います。実際、この言葉は日常の医療現場で頻繁に使われています。
私の経営する「蒲田よしのクリニック」に来院される方々からも、それまで通院していた病院の医師に「様子を見ましょう」と言われ、どうすればよいのか分からず困惑したという話をよく伺います。
実は、この「様子を見ましょう」という言葉には、まったく異なる二つの意味合いがあります。一つは医学的な根拠に基づく積極的な経過観察であり、もう一つは、具体的な対処法が見つからないために、ひとまず時間の経過に委ねてしまう消極的な経過観察です。
前者は、例えば薬物療法や生活習慣の改善など、具体的な治療や取り組みを始めた後、その効果を確認するために一定期間経過を見るというものです。治療方針が明確であり、どのような変化を期待し、どの時点で次の判断をするのかが整理されていれば、これは合理的な医療の進め方といえます。
一方、問題なのは後者です。患者の症状や検査結果を十分に評価できず、病態や適切な治療法が分からないまま、「とりあえず様子を見ましょう」としてしまうケースです。
もちろん、医学にはまだ解明されていないことも多く、すぐに診断や治療方針を決められない場合もあります。しかし、だからといって何もせずに時間を過ごしてよいわけではありません。医師には、分からないことを分からないままにせず、追加の検査や他の専門医への紹介、別の視点からの病態評価など、次の一手を考える責任があります。
そもそも、病気や体調不良への対処は、時間との勝負になることがあります。適切な治療にたどり着くまでの時間が長引けば、患者さんの苦痛が続くだけでなく、日常生活や仕事への影響がさらに大きくなる可能性もあります。
そのような問題を考える上で、私が特に気になっているのが、コロナ感染後やワクチン接種後に長引く体調不良を訴える方々への対応です。こうした方々の中には、筋痛性脳脊髄炎・慢性疲労症候群(ME/CFS)に類似した複雑な症状を呈する方もおられます。
ME/CFSでは、強い全身倦怠感、集中力や記憶力の低下、不眠、気分の落ち込み、頭痛、めまい、動悸など、実に多彩な症状が現れます。重症になると、日常生活を送ることさえ困難になり、休職や離職を余儀なくされる方もいます。
私のクリニックには、こうした複雑な体調不良を抱えた方が、この数年間で500名以上来院されています。特徴的なのは、半数以上が区外など遠方から来られていること、そして、その大半がすでに地元の病院を受診し、さまざまな検査を受けていることです。
では、なぜわざわざ遠方から当院まで来られるのでしょうか。
多くの方々が共通して話されるのは、病院で検査を受けても「特に異常はありません。様子を見ましょう」と言われ、その後も症状が改善しなかったという経緯です。別の病院を受診しても同じ説明を受け、結局、どこに相談すればよいのか分からなくなってしまうのです。
確かに、ME/CFSのような複雑な病態では、一般的な血液検査や画像検査で明らかな異常が見つからないこともあります。しかし、一般的な検査で異常が見つからないことと、患者さんに問題がないことは、決して同じではありません。検査で捉えきれない病態が存在する可能性も考え、症状の経過や身体全体の状態を多角的に評価する必要があります。
私は、医師が患者さんに「様子を見ましょう」と伝えるのであれば、それ相応の医学的根拠が必要だと考えています。何を観察するのか、どの程度の期間を想定するのか、どのような変化があれば次の対応に進むのか。そうした見通しを持たずに、ただ時間の経過を待つことは、患者さんにとって貴重な時間を浪費することにもなりかねません。
医療において大切なのは、分からないことを理由に立ち止まるのではなく、現時点で考えられる可能性を一つずつ検討し、必要な検査や治療法を探し続けることです。場合によっては、従来とは異なる視点から病態を捉え直すことも必要でしょう。
当院では、こうした長引く体調不良を抱えた方々に対し、従来の検査結果だけにとらわれず、症状の背景を多角的に評価しながら、改善につながる方法を探ることを大切にしています。その結果、数カ月以内に症状の軽減が認められる方や、休職・離職から職場復帰を果たす方、復帰への見通しが立つ方もおられます。
「様子を見る」ということは、決して「何もしない」ということではありません。患者さんの時間を大切にし、必要なことを考え、次の一歩を探し続ける。それこそが、医療に携わる専門家としての責任ではないでしょうか。
では、こうした複雑な体調不良に対して、具体的にどのような評価や対処を行えば改善につながるのでしょうか。この点については、改めて詳しくご紹介したいと思います。






