「コロナ後遺症外来」開設の背景 (3)
いわゆる「コロナ後遺症」の症状は全身倦怠感、不眠、憂うつ感、不安感、食欲不振、めまい、頭痛、動悸、息切れ、味覚および嗅覚障害、脱毛、集中力の低下などと多岐にわたり、原因も未だよく分かっていません。
一見してウイルス感染症の後遺症にしては症状がたいへん複雑なため、原因や発症メカニズムに関しては専門家より多くの「仮説」が提唱されていますが、決め手がないというのが現状です。
前回のコラムで紹介しましたが、現時点で考えられている原因としては、概略として次のようなものが挙げられます。
① ウイルス感染が長引いた事による全身の各組織に於ける「慢性炎症」
② ウイルスに対する強い免疫反応およびサイトカインによる「自己免疫機序」
③ 組織のACE2受容体への親和性と関連した「血管内の多発性微小血栓」
コロナ後遺症に関する臨床および基礎研究が進んでいないため、原因が特定できないのは現状で致し方ないとも言えますが、そのような事情も反映し、治療に関しても今のところ決定打がなく、文字通り手探りの状況となっています。
後遺症患者の急増を受けて、各地で「コロナ後遺症外来」が開設され、治療的トライアルが行なわれていますが、実際は「薬物療法」が主体となっています。つまり個々の症状を緩和するような対症療法の域を出ず、およそ根治的な治療とは言い難いのが現状です。
そのような状況下、にわかに注目されているのが、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CSF)とコロナ後遺症との関連性です。
同症候群は、これまで健康に生活していた人が原因不明の激しい全身倦怠感に襲われ、強度の疲労感と共に微熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、脱力感、思考力の障害、抑うつ状態など多彩な症状が長期にわたって続くため、健全な社会生活が送れなくなるという疾患です。
現在のところ詳しい発症要因は分かっておらず、はっきりとした治療法は確立されていません。ただ以前よりインフルエンザなどウイルス感染症を契機として発症する傾向があり、2003年のSARS流行時には、香港やカナダなどでME/CSFが集団発生した事例が報告されています。
ME/CSFは症状が多岐にわたり、ウイルス感染後に発生しやすい傾向などに注目し、今回のコロナ後遺症との関連性を論ずる専門家の意見が増えてきています。確かに倦怠感や集中力低下、筋肉痛など、ME/CSFとコロナ後遺症とでは症状にかなり共通点が多い事に気付きます。
もちろんME/CSFとコロナ後遺症とでは相違点もありますし、関連性に疑問を持つ専門家も少なくありません。とはいえSARS流行時の多発状況や症状の類似性を考えると、不明な点の多いコロナ後遺症の発症要因と治療法を考えるに当たり、大いに参考とすべきであると考えます。
さて国立精神・神経医療研究センターなどの研究により、ME/CSF症例の多くでは、ウイルス感染などをトリガーとしてBリンパ球が刺激され、神経伝達物質の受容体などに対する抗体が産生され、自律神経機能などに異常を来たす可能性が示唆されました。
この仮説に従えば、インフルエンザやSARSなどのウイルス感染症を契機とした自律神経失調を含む諸症状、すなわち倦怠感や抑うつ感、不眠、集中力低下、不安障害、動悸、息切れ、めまい等の症状の、少なくとも一部は説明がつく事になります。
つまりウイルス感染症が引き金となり抗体産生という「免疫異常」が惹起され、産生された抗体が神経伝達物質の機能不全をもたらし、結果的に自律神経失調などの「神経機能異常」を引き起こす、というメカニズムが想定されます。
従ってME/CSFの治療に関しては、免疫異常をどう制御するかという観点と、神経機能をどう回復させるかという観点などに注目が集まりました。我が国でもCFS 治療ガイドライン作成委員会による「ME/CSF治療ガイドライン」が提示されています。
そのガイドラインでは、様々な治療法に関する評価が提示されていますが、そこで概略として比較的高い評価を得ている治療法には、次のようなものが挙げられます。
★「考慮してもよい(さらに科学的根拠の検討・集積が必要)」との評価
抗うつ薬
漢方薬
段階的運動療法
和温療法
ヨガ療法
栄養補助食品
認知行動療法
次回はME/CSFの治療法について、個別に検討してみたいと思います・・(続く)