吉野です。皆さんこんにちは。早くも3月に入りましたが、例年の事ながら2月というのはとても短く感じます。実際に2月は、うるう年を除いて28日しかないため物理的に短いのは当然ですが、年度末で忙しい3月を控えて、あっという間に過ぎ去ってしまう、という実感を持っている方は多いのではないかと思います。寒い日が続いているとなおさら「まだ冬だと思っていたら、もう3月か・・」などと感じる事でしょう。
それに2月末というのは、何かと慌てることが多い時期です。例えば、どこかと契約してこの様なコラムを書く場合にも、月末が締切りという決まりであれば、月末は30日や31日であるという思い込みから「あと5日で書けばいい」などと考えていると、実際は締切りが明後日だったと判明し、慌ててしまうことがあります。また商店などでは営業日が少ないため、売上げなどに影響が出ることも少なくありません。

さて少し暗い話題となりますが、3月といえば、メンタルヘルスの面から要注意の時期という側面があります。というのは、数年前の若干古いデータではありますが、自殺者が年間で最も多い日は3月1日である、との報告があります。月初の1日も含め、3月は以前から自殺者が多い月の一つとして知られています。自殺以外にも、うつ病などメンタル不調を伴う疾患は、3月など春先に発症、増悪するケースが目立ちます。
それでは何故、3月1日に自殺者が多く出るのでしょうか。一つの要因として挙げられているのが「人事異動」です。3月初旬の頃は、多くの企業に於いて春の人事異動が発表になる時期です。当然の事ながら昇進する人もいれば降格となる人もいますし、転勤や配置換えなどの異動も明らかにされます。意に反した昇格や降格、異動となって、過大なストレスを感じる人も少なくありません。

私はクリニック経営の傍ら、産業医の業務も並行して行なっている関係で、仕事上のストレスが原因となるメンタル不調に関する相談をよく受けますが、昇進や異動などを契機にストレスが増大し、メンタル不調の発症、増悪に至るケースは多々見受けます。降格はともかく昇進してメンタル不調に陥るというと、一見して意外な感じを持つ方もいるでしょうが、いわゆる「昇進うつ」というのは案外、多いものです。
職場に於ける昇進に限らず、傍目には「幸せな変化」と映るライフイベント、例えば進学や結婚、開業や起業などは、目に見えないストレスが本人に降りかかって来るものです。例えば仕事の責任が増える、生活環境が変わる、付き合うべき人間が増える、など様々な負荷がかかります。但し昇進、結婚などは一般に「幸せな」変化と世間ではみられるため、ストレスが増えた、などとは口にしづらいので、表面化しにくいのです。

このような環境の変化に伴うストレスやメンタルヘルスは、たいへん重要なテーマですので、日を改めて詳しく解説したいと思います。

さて前回は、風邪やインフルエンザ、花粉症などを予防あるいは早期治療する上で、毎日の食事が大切であることを説明しました。とりわけ各種ビタミン・ミネラルの必要性を述べた上で、抗酸化成分も劣らず重要であると話しました。今回は様々な抗酸化成分が風邪やインフルエンザなどに対し、どのような仕組みで効果を発揮するかについて説明したいと思います。
風邪をひくと我々は熱や咳、のどの痛み等の症状に見舞われますが、殆んどの場合、数日以内に自然と治ってしまいます。よく「風邪ひいて薬を飲んだら治った」などという話を聞きますが、実は風邪薬というものは、発熱や咳など風邪にまつわる症状を緩和するだけであり、決して風邪を治癒させるような代物ではありません。自然治癒力としての「免疫力」によって、我々は自ら風邪を治しているのです。

免疫力には幾つかの方式があり、このうち特定のウイルスに対する抗体が働く免疫システムを「獲得免疫」といいます。インフルエンザなどのウイルスが体内に侵入すると、それを弱毒化、排除する目的で、リンパ球という免疫細胞が抗体タンパクを産生します。この仕組みを利用したのがワクチンであり、予防的な効果としては威力充分ですが、効果が現れるのには数日かかるため、迅速さという点では若干物足りなさがあります。
迅速と融通無碍さでこれを補うのが、マクロファージなどの貪食細胞が担う「自然免疫」です。マクロファージはウイルスの種類に関係なく、体にとって異物と認識できるものは片っ端から迅速に貪食し排除します。ウイルスが侵入し感染、発症した後、早期に出動するのは自然免疫であり、獲得免疫ではありません。獲得免疫が魚類以上の高等動物に特有のシステムであるのに対し、自然免疫は昆虫など小動物にも存在しています。

実はマクロファージなどの自然免疫よりも「さらに自然な」免疫システムの存在が知られています。これは個々の細胞内に於ける自前の免疫現象であり、特定の専門的な免疫細胞が担当している訳ではありません。これには主として細胞内の各種「酵素」が関係しています。細胞内の酵素は様々な有毒物質や異物を解毒し無毒化、排除していますが、並行してウイルスや細菌などの病原体の排除にも一役買っているのです。
細胞内酵素は古くなったタンパク質を分解し、再利用する事にも貢献しています。すなわちファゴソームという膜でタンパク質を囲い込み、酵素で分解するのです。これはオートファジーと呼ばれ、ノーベル賞の受賞対象となった概念です。細胞内の解毒とタンパク質リサイクルに関わる巧妙なシステムの一環として、ウイルスなど病原体から細胞や生体を守るシステムが日々働いているのです。

このような、いうなれば「細胞内免疫」ともいえる仕組みは、小動物どころか単細胞生物の時代から存在していた、とされています。免疫細胞を備えていない単細胞生物は、細胞に内包された仕組みでしか病原体から身を守れません。そしてこの細胞内免疫は極めて迅速です。ウイルスが侵入した後、真っ先に細胞内免疫が初動し、次にマクロファージなど自然免疫が支援し、数日たって抗体など獲得免疫の出番となります。

それではこの迅速に働く細胞内免疫を、少しでも強化する方法はないのでしょうか。その答えの一つが各種「抗酸化物質」の積極的な補給なのです・・(続く)

蒲田よしのクリニック