今後はトピックとなる話題と並行し、心身の健康にとって重要なテーマに関して、系統立てて詳しく解説していこうと思います。今回は、特に重要な「栄養」とメンタルヘルスの関係について、基本的な考え方と対処法を解説いたします。

 

我が国では近年、うつ病が増加の一途をたどっています。子供から大人に至るまで多くの年齢層で増加しており、うつ病が原因と考えられる自殺者も増えている、という悲しい現実があります。うつ病が原因となって会社を休む、離職する、家に引きこもる・・こういった状況は、企業や学校、地域社会にとっても大きな問題です。

 

うつ病は、どのような理由によって増えているのでしょうか。

 

職場の長時間労働、上司や管理職によるパワハラ、いじめ、そしてコロナ流行など様々な原因が挙げられ、企業では働き方改革やパワハラ対策、いじめ対策などが行われていますが、必ずしも効果が出ているとは言えません。つまり長時間労働は減り、パワハラ上司も減っているのに、うつは逆に増えているのが現実です。これは一体どういうことでしょうか?

 

実は、うつ病だけでなく、不安神経症、不眠症、パニック障害、自律神経失調症、更年期障害、慢性疲労、アレルギー、風邪、ガンなど、様々な体調不良や病気が軒並み増えています。

 

これらの原因としては、長時間労働やパワハラ上司といった問題だけでなく、「鉄欠乏」や「ビタミンB群欠乏」といった栄養バランスの乱れが大きく関わっているのです。

 

実際、うつ病などメンタル不調の9割以上は、栄養バランスの乱れが原因であるというデータもあります。例えば鉄欠乏は、イライラ感、憂うつ感、不眠などの症状を引き起こし、ビタミンB群欠乏は、集中力や記憶力の低下、音や光への過敏などの症状を引き起こします。

 

これらの栄養素の過不足は、通常の血液検査で簡単に確認することができます。例えばフェリチン( 体内の貯蔵鉄量を反映する指標)の値を調べることで鉄欠乏が、肝機能の項目を詳しく見ることでビタミンB群欠乏が分かります。

 

たとえ働き方改革で長時間労働が減り、パワハラ対策でパワハラ上司が減ったにも関わらず、うつ病がむしろ増えているのは、一つには食生活の乱れや腸内環境の悪化による栄養不足が原因である可能性が高いのです。

 

例えば、比較的うつ病の罹患者が多いとされるシステムエンジニア(SE)の方の例を挙げると、長時間労働のためうつ病になったとしても、血液検査をしてみると、女性の場合は鉄欠乏が、そして男女を問わずビタミンB群欠乏など栄養バランスの乱れが見つかる事例が少なくありません。

 

毎年のように実施されるストレスチェックテストでも、体調不良やメンタル不調などの現状を表わす項目は悪いのに、労働環境や人間関係の現状を表わす項目は悪くない、というケースが多く見られます。これは結果として、栄養バランスの問題が根底にあることを示唆しています。

 

そのように、企業の社員や学校の生徒などのメンタルヘルスを維持するためには、人間関係の改善や長時間労働の是正だけに留まらず、「セルフケア」つまり食事の工夫や腸内環境の改善による栄養バランスの改善が不可欠な懸案となっています。

 

つまりラインケア(職場の上司や同僚など、企業現場に於ける身近な人によるメンタルヘルスケア)だけでなく、セルフケアによって個人の体質や気質を改善し、メンタルヘルスの状態を改善させることが重要なのです。

 

今後は鉄欠乏やビタミンB群欠乏など具体的な栄養素について、それに栄養素を補給するための有効な食事法などについて詳しく解説していきますので、ぜひご期待ください。

蒲田よしのクリニック