新年を迎え、街の雰囲気が年末とは明らかに変化しました。それは商店街を流れる「音楽」の影響かも知れません。11月の下旬あたりからクリスマス音楽が至る所で流れており、クリスマス気分を盛り上げたものですが、さすがに1ヶ月以上も続くと飽きてくるものです。それが12月26日になると一転して、ベートーベンの「第九」が流れました。

蒲田よしのクリニックの所在する蒲田東口商店街でも毎年「第九」が流れます。私は「第九」が好きですが、商店街で耳にするのはポップ調の第九です。これはこれで楽しく軽快な年末の音楽といえます。ちなみに年末に第九を流すのは日本独特の習慣であり、本場ドイツでは、むしろ年明けの1月に第九の演奏会が開かれる事が多いそうです。

続いて元旦からは、お正月特有の「雅楽」が流れています。クリスマス音楽や第九のような「年末」の音楽は、季節柄どこかせわしない印象がありますが、年が明けて「年始」の音楽は、お正月休みという事もあり、一転してのんびりした、ゆったりした雰囲気があります。このように年末年始ほど、街の雰囲気が一変する季節はないといえそうです。

さて前回1月2日のブログでは、コロナ感染後やコロナワクチン接種後に多発しているME/CFS(筋痛性脳脊髄炎・慢性疲労症候群)に関して、一般病院を経由して多くの患者が我々のクリニックへ来院している事、全身倦怠感や多彩な神経症状、全身各所の痛みなど、非常に複雑かつ深刻な症状に見舞われている事、などを説明しました。

すなわちME/CFSでは大なり小なり全身倦怠感がほぼ必発であり、これに不眠、憂うつ感、集中力や記憶力・意欲の低下、ブレインフォグ(頭がボーっとする異常感覚)、各種の自律神経失調など神経・精神症状が高率かつ広範に認められ、頭痛や全身の筋肉痛、関節痛、神経痛など様々な疼痛といった症状が認められます。

これら倦怠感や神経症状、痛み等の症状には大きな個人差がありますが、しばしば深刻な健康上の障害となります。中にはほぼ寝たきりとなっている方も少なくありません。著しい体調不良のため仕事を休まざるを得ない、歩行や日常動作にも重大な支障があるなど、その方の仕事や日常生活に明らかな悪影響が、大なり小なり表れています。

そのような多彩で深刻な症状に見舞われた方々の多くは、手始めに地元のクリニックや病院を受診します。ところが地元の病院から診療を拒否された、あるいは診療を受けたが検査で異常なく、原因不明で治療法なしといわれ、途方に暮れている方々が少なくありません。その方々の一部が、我々のようなクリニックへ辿り着くのです。

地元の病院やクリニックで診療を断られた、あるいは「原因不明で治療法なし」と匙を投げられた方々は、どのような事情でそのような辛い体験をし、どのような経緯と経過で我々のクリニックへ辿り着くのでしょうか。それは一言で説明できるような単純な話ではないため、日を改めて詳しく解説したいと思います。

そのような辛い目に遭い、散々苦労して我々のクリニックへやってきた患者さんに対しては、どのような治療を行なっているのでしょうか。治療法に関しては改めて詳述しますが、例えば私の「蒲田よしのクリニック」ではラドン温浴、各種の点滴療法、栄養療法、プラセンタ注射、漢方療法などに取り組み、一定の治療効果を得ています。

今回のブログではME/CFSの「病態」について簡単に説明したいと思います。ME/CFSは実は、2002年から中国南部や東南アジアで流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の時期から知られ、研究が進められてきました。この時にもコロナ様の感染症が流行し、その後にME/CFSを思わせる倦怠感や神経症状などの体調不良が多発しました。

よくコロナ後遺症やワクチン後遺症、ME/CFSは原因不明、などといわれますが、20年以上前のSARS流行を契機として、世界中で研究が進められました。日本でも国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院放射線診療部および神経研究所免疫研究部を主体とする研究グループによる研究が、たいへん注目されています。

「筋痛性脳脊髄炎 (ME/CFS)の自律神経受容体抗体に関連した 脳内構造ネットワーク異常を発見」
https://www.ncnp.go.jp/topics/2020/20200703.html

この研究によると、自律神経接合部に於ける主要な神経伝達物質であるノルアドレナリンやアセチルコリンの受容体に対する自己抗体が、ME/CFSの病態に関与する可能性が示唆されました。これを一つの契機として、自律神経や運動神経、感覚神経、認知機能を司る神経などに於いて、自己抗体による「慢性炎症」の存在が明らかとなってきました。

すなわちSARSやコロナなどのウイルス感染、コロナワクチン接種などを契機として、神経接合部の神経受容体に自己抗体が関与する慢性炎症が発生し、それによって各種の自律神経症状、記憶力低下などの認知機能障害、歩行障害などの運動機能異常、シビレ等の感覚障害といった、一連の多彩な神経症状を引き起こすと説明されています。

自己抗体による慢性炎症が発生する場所は神経系以外にも多数あり、内分泌組織や性腺、消化器系など多岐にわたります。ところがME/CFSは神経症状の出現頻度が飛び抜けて高く、疲労症状と神経系の諸症状を合わせると60~70%に上ります。何らかの理由があって神経系、とりわけ神経接合部に慢性炎症と機能障害が発生しやすいのです。

その一方で、慢性疲労の原因として重視されるのがミトコンドリア機能異常です。ミトコンドリアは細胞内に多数あり、糖質や脂質を原料としてATP(アデノシン3リン酸)を産生しています。これが人間の活動を支えるエネルギー源となるのです。ところがワクチン接種などを契機としてミトコンドリア代謝が障害される事が知られてきました。

ミトコンドリアでは糖質や脂質などの栄養素を酸素で燃焼させ、ビタミンB群などの微量栄養素の助けでATPを産生します。取り込んだ酸素は一定の割合で活性酸素に変化ますが、もし活性酸素を適切に消去できなければ、酸化ストレスとなってATPの産生が阻害されます。実はME/CFSでは、酸化ストレスが異常に亢進している事が分かってきました。

以上を総合すると、ME/CFSでは各種神経の接合部に慢性炎症が発生し、ミトコンドリアが酸化ストレスによってエネルギー産生が阻害され、複雑な病態が形作られます。という事は、慢性炎症を沈静化して神経機能を回復させる、酸化ストレスを緩和してミトコンドリア代謝を回復させる、などの取り組みが治療の柱として重視される事になります。

各種の治療法に関しては、次回以降ご説明いたします・・(続く)

蒲田よしのクリニック