11月6日の日経新聞に「漁業『6次化』で価値創造」というタイトルの記事が1面トップを飾りました。国民の「魚離れ」による低迷が続く漁業の現状を憂い、獲った魚を売るだけでなく「売れる魚を創る」という積極姿勢に転じ、活況に湧く市場をレポートしています。

「6次化」というのは近年にわかに注目されてきたビジネス用語で、第1次産業である農業や漁業の従事者が、第2次産業(食品加工など)や第3次産業(卸・小売り・外食・観光など)に進出、あるいは業務提携により地域振興をはかる一連の取り組みを指しています。

6次産業の「6」とは、1次・2次・3次の数字を掛け合わせたものです。それら産業の融合によって新たな価値を生み出し、1次産業だけでは低迷しがちな農業や漁業を、加工や流通、物販、外食や観光などにつなげる事で、活性化に成功した事例が続出しています。

「6次化」に成功した地域では「利益率」も向上しています。例えば和歌山県では19年度の漁業産出額が14年比5.5%減という現状に対し、クジラやイルカ見学といった漁業体験などの関連事業に市町村が主体的に取り組み、「6次」全体で7%成長となりました。

また三重県の鳥羽市では14年に漁協と農協が共同出資し、地元農水産物の販売場と郷土料理のレストランを併設した「産直市場」を開業して年間約30万人が訪れるなど、観光と地域の需要を掘り起こし、漁業産出額の減少傾向に歯止めをかける事に成功しました。

このような事例を見るにつけ、単に「魚を獲る」だけが漁業ではない事がよく分かります。獲った魚を加工、流通し、どのように消費者に味わって頂くか。それ以前に、どのような魚とそれに関連するサービスを消費者が求めているかを把握する事が大切なのです。

加工や流通、サービスなどの他業種と融合すれば、まだまだ「伸びしろ」のある漁業とは言えますが、現実に日本全体としては、魚介類の消費量の減少傾向が続いています。この「魚離れ」の傾向が日本人の「健康」に、どのような影響を与えているか考えてみましょう。

戦後の日本は男女ともに平均寿命が世界トップを維持し、世界中の医学研究者から注目されてきました。日本人の「健康長寿」の秘訣は何か研究が重ねられ、その一つは日本人が毎日のように食べる魚介類ではないか、と多くの専門家から指摘されました。

魚介類の健康への影響は多くの観点から研究されていますが、最大の要素の一つが、魚介類の含有する「優れた油脂」です。魚介類は多かれ少なかれ、「オメガ3系」の油脂に分類されるEPA(エイコサペンタエン酸)およびDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富です。

オメガ3系油脂は必須脂肪酸の一つで、やはり必須脂肪酸である「オメガ6系」油脂と対比される存在です。3系も6系も人体にとって必須の脂肪酸であり、食事として毎日のように摂取する必要がありますが、実はその摂取する「比率」がたいへん重要なのです。

脂質のもつ重要な機能の一つとして、「細胞膜」の構成要素である、という点があります。細胞膜の良し悪しは細胞の機能を左右する重要事項ですが、その膜を構成する脂肪酸の比率によって、細胞の機能だけでなく我々の健康度に大きな影響を与えているのです。

この細胞膜を構成する脂肪酸の比率に関しては、必須脂肪酸であるオメガ3系とオメガ6系との比率がたいへん重要で、最低でも1対1、できれば2対1か3対1がベストとされています。すなわちオメガ3系がオメガ6系と同等か、2~3倍多いのが良いとされます。

オメガ6系がオメガ3系よりも過剰になると、オメガ6系からアラキドン酸という脂肪酸が多量に生成され、これが炎症やアレルギーを促進し、血栓傾向となり、動脈硬化を進行するような状況となります。従ってオメガ6系の過剰摂取は控えるべきとされています。

これに対してオメガ3系の方が多い場合には逆の傾向となり、炎症やアレルギーは抑制され、血栓は溶解し、動脈硬化は制御されるような状況となります。すなわち炎症や血栓、血管病変を抑制する方向となるため、オメガ3系の摂取はむしろ推奨されます。

しかし現実に我々の周囲には、オメガ6系があふれています。一般的な「サラダ油」はもとより、コーン油や大豆油、紅花油、綿実油など多くの油はオメガ6系が大部分を占めています。これらを用いた揚げ物やスナック菓子などは、もちろんオメガ6系まみれです。

これに対してオメガ3系は、とても少ないのが現状です。植物油としてはアマニ油とエゴマ油(シソ油)くらいしかありませんし、それ以外には魚油のEPAとDHAだけです。食品あるいは油製品として売られている商品は、圧倒的にオメガ6系が多くなっているのです。

そのように圧倒的な「オメガ6系優位」の食環境のもとでは、細胞膜の機能異常に端を発する炎症やアレルギー、動脈硬化の促進、血栓症の増加、さらにはガンや神経疾患の増加など、様々な健康上の悪影響が、現実問題として現れやすくなります。

そういう現状も影響し、日本ではガンの罹患率や死亡率が先進国では唯一、上昇を続けています。また花粉症など各種アレルギー疾患、ウツなどメンタル不調といった各種の病気が軒並み増加傾向です。もはや「健康長寿」を自慢する段階ではなくなっています。

これが実は今回の新型コロナ蔓延に付随する「コロナ後遺症」の問題とも、密接に関係していると考えられます。コロナ後遺症は特定のウイルス感染症の問題というだけでなく、栄養バランスや代謝、細胞や神経の機能など、体質的な問題とも関わっているのです。

前回までのコラムで、コロナ後遺症およびそれと強い関連性のあるME/CSF(筋痛性脳脊髄炎・慢性疲労症候群)に於いては、免疫異常から自律神経などに対する「自己免疫を伴う炎症反応」が主要な病態の一つと考えられている、などと説明しました。

そのためコロナ後遺症あるいはME/CSFに対する治療や予防という観点からは、自律神経など神経機能をどう保持、回復させるかという視点と並んで、免疫異常や炎症反応をどう制御するか、という視点がたいへん重要になってくるのです。

自律神経など神経機能に関しては前回のコラムで、神経伝達物質の生合成に関係する栄養素、すなわちタンパク質および各種アミノ酸、それに鉄やビタミンB群などの微量栄養素を「メガドーズ(薬理学的容量)」で投与する事が重要である、と説明しました。

それと並んで免疫異常および炎症反応を抑制するための取り組みが重要となりますが、その有効な方法の一つとして、EPAとDHAを含むオメガ3系油脂を補給する、という事が挙げられます。これも容量が大切で、可能ならば「メガドーズ」が推奨されます。

このオメガ3系油脂は、炎症や免疫異常の制御だけでなく、実は神経機能そのものの改善にも有効性があります。特にDHAは神経細胞の「しなやかさ」を改善し、ストレス耐性を増強するなどの効果をもたらし、ウツなどメンタル不調の回復にも寄与しています。

炎症や免疫異常を抑制する栄養成分は他にも様々あります。例えば亜鉛やビタミンC、ビタミンDなどの微量栄養素にも優れた効果があり、これは「コロナ感染」自体の予防にも素晴らしい効果を発揮しますが、なぜか日本ではあまり知られていません・・(続く)

蒲田よしのクリニック