去る10月24日に石川県の和倉温泉で、私も約2年前から加盟している医師向けスクールの卒後セミナーが開催されました。前夜は宿泊先である海辺の老舗旅館「多田屋」でスクール生の懇親会があり、当日は隣接する七尾市の会場でセミナーを開きました。

 

このスクールは、薬に頼らず「自然治癒力」を活かした医療を普及し、医療を根本的に改革しようという医師の集まりで、定期的にセミナーや研修会を開いています。今回は和倉温泉でクリニックと温泉を融合した医療を目指している医師の主催で行なわれました。

 

目下コロナ禍という事情もあり、「自分や家族の健康は自分たちで守る」という意識が間違いなく高まっていると感じています。それを反映してか、セミナーでは医師だけでなく、健康に関心の高い地元の一般の方々も多数参加し、活発な議論が交わされました。

 

前日のスクール生による懇親会でも、当日のセミナーでも繰り返し議論になりましたが、ウツなどメンタル不調、それにガンなどの慢性疾患に対し、栄養療法や点滴療法と組み合わせる形で「温泉」を活用する良い方法はないか、というアイデアが浮上しました。

 

メンタルにしてもガンにしても、栄養や代謝の乱れが発病や悪化の直接的な原因となります。それと並んで血流の滞留や冷え、毒素の蓄積なども影響します。従って栄養療法と温泉療法との併用により、病気の治療や予防などに威力を発揮する事が期待できます。

 

実際にガンや生活習慣病、ウツなどメンタル不調など幅広い分野で、体を芯から温める治療法と、ビタミンやミネラルなど栄養素を充分に補充するような治療法を組み合わせ、実に多くの方々の病気および心身の不調が顕著に改善し、健康体を取り戻しています。

 

例えば蒲田よしのクリニックに於いては、ウツなどメンタル不調の患者は大半がビタミンB群欠乏など栄養バランスの乱れを認めることから、ビタミンやミネラル等の補充目的で医療用サプリメント内服を行なうと伴に、ラドン温浴などの治療に取り組んでいます。

 

さて前回まで数本のコラムで、コロナ後遺症と深い関係性があるME/CSF(筋痛性脳脊髄炎・慢性疲労症候群)に於いては、免疫異常を背景として神経伝達物質の受容体に炎症が発生し、自律神経失調の諸症状を招いている可能性がある、と説明しました。

 

従ってコロナ後遺症あるいはME/CSFの複雑かつ遷延する心身の不調を改善するための糸口としては、一つには免疫異常をどう正常化させるか、二つには障害された自律神経など神経機能をどう回復させるか、という少なくとも二つの視点で考える事が肝要です。

 

自律神経など「神経機能の回復」の点では、必要度の高い栄養素が多数あります。先ず挙げられるのが、神経伝達物質の生合成の上で必要な栄養素です。これには原料となるタンパク質および各種アミノ酸、それに合成酵素の補酵素となる各種ビタミンやミネラルです。

 

例えば代表的な神経伝達物質の一つであるセロトニンを合成する上では、トリプトファンというアミノ酸と、補酵素としての鉄、ビタミンB群、カルシウム、マグネシウム、ビタミンCなどが最低でも必要です。他に亜鉛やビタミンDなども不可欠とされます。

 

セロトニン以外にドーパミンやGABA、アセチルコリンなど様々な神経伝達物質があり、各々原料となるアミノ酸は異なりますが、補酵素としてビタミンB群などのビタミン各種、鉄やマグネシウムなどのミネラル各種を必要としている点は共通しています。

 

もちろん神経細胞そのものを強化する事も大切です。神経細胞や軸索、神経筋接合部などの構成要素であるタンパク質、各種アミノ酸、コレステロール、鉄やカルシウムなど各種ミネラルなどは充分な補給が必要です。ビタミンは、とりわけビタミンB群が最重要です。

 

神経と並んで日常的な活動の大切なポイントとなるのが、神経から伝わった指令を運動という形に変換する「筋肉」です。筋肉の活動では特に「分岐鎖アミノ酸(BCAA)」が重要な役割を果たします。神経と筋肉の機能を改善するには、とりわけBCAAが大切です。

 

さて一方で「免疫異常の改善」を目指す上で必要度の高い栄養としては、どのようなものがあるでしょうか。これにも様々な栄養素が挙げられますが、その代表格の一つは、いわゆる「魚の油」でオメガ3系に分類される油脂の一つです。

 

主な魚油としてはEPA(エイコサペンタエン酸)およびDHA(ドコサヘキサエン酸)が挙げられます。どちらもサバやイワシ、サンマ、アジなどの青魚に豊富に含まれており、動脈硬化を抑制して血栓症を予防する、などの効能が昔から知られている油脂です。

 

最近の研究で、EPAは炎症反応や免疫の暴走を抑制する働きが証明され、重要な「抗炎症成分」の一つとして、免疫異常に対する効果が知られるようになってきました。次回はそのメカニズムともう一方のDHAの効果、それ以外の栄養素について説明します・・(続く)

蒲田よしのクリニック