吉野です。皆さんこんにちは。梅雨前線が活発になり、ようやく梅雨らしい雨が降っています。雨が続くと確かに鬱陶しいのですが、今年の雨はとても貴重です。というのは、4月からの約2か月間、かなり雨量の少ない状態が続いているためです。地域により差はありますが、多くの場所で例年の半分以下しか雨が降っていないのです。少雨傾向がなお続けば、水不足のため農作物の作柄などに影響してしまうかもしれません。

さて私は今月前半の日曜日を利用して、山梨県の増冨温泉へ行ってきました。約7年ぶりの増冨での湯治です。増冨温泉は秋田県の玉川温泉、鳥取県の三朝温泉、北海道の二股ラジウム温泉などと並ぶ数少ないラジウム温泉の一つで、湧出する源泉に含まれるラドン濃度は、ほぼ世界一のレベルとされています。玉川温泉などと伴に、全国各地からガンなど難病の方が多数、湯治に訪れています。
増冨温泉はとても標高の高い位置にあります。甲府から真北方向、長野県境からさほど遠くなく、八ヶ岳に連なる山々の中腹に位置します。最寄り駅は中央本線の韮崎駅ですが、バスの終点であり、韮崎駅から1時間以上もかかります。前回もそうでしたが、湯治客に混じって登山から降りてきたとみられる方々も多く、疲れや筋肉痛を癒しているようでした。

増冨の湯はラドンが豊富なだけでなく、鉄分や炭酸など多くの有効成分が含まれており、ラドンによる「低放射線ホルミシス効果」はもとより、保温効果や血行促進、免疫力向上など様々な効能が謳われています。ホルミシス効果とは、低線量の放射線は体に無害であり、それどころか様々な健康上の効能が認められる現象を意味し、ガンなど難病に対する有効性も、主としてこのホルミシス効果によるところが大です。
さらに増冨の特徴は、湯の「ぬるさ」です。最近ぬるめの半身浴が推奨されていますが、多くは38℃から39℃くらいのレベルです。それに対して増冨のぬるさは半端じゃありません。浴槽が幾つかあり、各々30℃、35℃、37℃の湯が張ってあります。さすがに30℃はぬるすぎる、というより冷たいと感じる程の低温ですが、しばらく入っていると慣れてきて、むしろじんわりと汗が滲んでくるから不思議です。

その大変ぬるい「30℃」の浴槽には10人前後の男性が入っていますが、多くの人は殆んど微動だにせず湯に浸かっています。とてもぬるいので、長いこと入っていても滅多にのぼせる事はありませんが、10分や15分が経過しても殆んど人の出入りがありません。多くの人は30分以上も浸かっており、長い人は1時間以上も入っていると思われました。あっという間に時間が経ち、私も結局50分ほど浸かりました。
さて30℃の次は「35℃」です。当然の事ですが、30℃に比べるとかなり温かく感じます。いわば「温泉らしい」お湯といえますが、さすがに1時間近くも入っていられません。ここには30分ほど浸かりました。続いて「37℃」です。たった2℃の違いですが、いかにも「お風呂」といった感覚です。15分ほど入り、大満足で上がりました。湯治の後、しつこい肩凝りがウソのように解消したのが印象的でした。

増冨温泉を含むラドン温泉、および低放射線ホルミシス効果に関しては、また日を改めて詳しく解説したいと思います。

さて前回のコラムでは、低体温および汗をかけない人が増えてきている事、そのような条件では体温調節に支障を来たし、熱中症のリスクが高くなる事、などをお話しました。すなわち汗をかく事で体に溜まった熱を冷ますことが出来ますが、汗をかけないとそのような「冷却効果」が発揮されず、暑い環境の下で体温が異常に高くなりがちです。そしてそれが嵩じると、熱中症の引き金となってしまいます。
人間の体温は36.5℃前後とされていますが、近年では35℃台もしくは34℃台という低体温の方がたいへん増えています。それと並行して、汗をかく習慣が少ない、なかなか汗をかけない、という人も増加しています。それによる健康上の弊害も深刻さを増しているのですが、なぜ現代の我々は、体温が低くなってしまった、そして汗をかけなくなってしまったのでしょうか。

それには先ず、そもそも汗とは何か、或いは人間の体温は何故36.5℃なのか、という事から考えてみる必要があります。人間にとって汗とは誰でも暑くなれば流す、ごく当たり前の体液ですが、よく観察すると、他の動物は人間ほどには汗をかいていない事に気がつきます。また体温も他の動物、例えば犬や猫、牛、豚、鳥などは人間より軒並み高く、37℃台から41℃台までに分布しています。
すなわち人間は体温が他の哺乳類や鳥類などに比べて例外的に低く、また特別に汗をかく動物なのです。それでは何故、人間の体温は低めであり、汗をたくさんかくのでしょうか。その理由を考える上で重要なキーワードの一つは「脳」です。人間は他の動物に比べて脳を異常なほど発達させ、言語や高度な思考力を駆使し、文明を生み出してきました。その脳を守るために、体温が低めで汗をよくかく、という訳です。

脳は本質的にコンピューターと似て、熱に弱いという性質があります。よく「熱にうなされてうわごとを言う」などと表現しますが、これは脳が熱に弱いことを示唆しています。それだけでなく脳は人体で最も多量のエネルギーを消費し、多量の熱を産生する場所です。従って脳の機能を維持するためには、有効な「冷却装置」を必要としますが、最も強力な冷却装置こそ、実は汗を生み出す「汗腺」なのです。
人間は脳を優先的に守る必要性から低めの体温を受け入れていますが、実は36.5℃という体温は、人体全般が許容できるギリギリの低い体温といえます。というのは、体内で化学反応を起こすための酵素が働ける温度の範囲が36~42℃であり、36℃以下では酵素が充分に働けなくなるためです。つまり35℃台あるいは34℃台という低体温では、体の営みが充分に発揮できていない可能性があるのです。

そのためにシワ寄せを食っている臓器や組織があちこちにありますが、その代表格は「腸」です・・(続く)

蒲田よしのクリニック