不用意な解熱剤で低体温→免疫力低下で風邪むしろ長引く!?
院長の吉野です。こんにちは。
最近の電車広告は一昔前と比べ、だんだん様変わりしてきました。昔ながらの中吊り広告や吊り革広告、ドア横広告などと並んで、デジタルサイネージという映像を流す新式の広告が急速に普及してきました。満員電車の中では時として新聞などを広げることが難しくなるので、近くに映像の広告がある場合には、つい見入ってしまいます。企業の広告以外に時々ニュースや天気予報なども流しているので、けっこう役に立ちます。
何日か前の朝、出勤途中の電車内で映像画面をぼんやりと眺めていたら、次のようなニュースが目に飛び込んできました。「うつ病患者が急増。15年で2・5倍に・・」といった内容のニュースです。音声はありませんし、乗り換えのためじっくりとは見ませんでしたので、ニュースの内容を正確には覚えていません。しかしこの「15年で2・5倍」という数字だけは、しっかり覚えています。
うつ病患者数が増えているのは統計上も明らかですし、日常診療や産業医業務などを通して、その現状を肌で感じています。しかし15年で2.5倍というのはいくら何でも大袈裟ではないか、と後から考え込みました。2.5倍といえばまさに爆発的な急増ですので、せいぜい1.5倍くらいかな、と思いました。そこで厚労省などの統計資料をネットで調べてみたところ、この急増ぶりは概ね間違いでないことが分かりました。
厚労省の調査によると、平成11年に医療機関を受診したうつ病患者が44万1千人だったのが、平成20年で104万1千人と2倍以上に増加しました。平成23年には95万8千人と減少したものの、最新の統計では再び100万人を大きく上回っており、この15年で2.5倍近くまで急増したのはほぼ間違いない模様です。それにしても、うつ病の爆発的な急増ぶりに改めて驚かされた次第です。
折しも厚労省が主導する形で「ストレスチェック・テスト」の来年度からの義務化が決定し、従業員数50人以上の企業は社員にストレス・チェックを受けさせることが求められます。急増するうつ病の原因の一つは職場のストレスである、との見解から導入が決まった訳で、意識の高い企業は次々とストレス・チェックの導入を決めています。私にも複数の企業から、ストレス・チェック導入に関する問い合わせが入りました。
こうしたいわば「メンタル版の職場健診」によって、職場に起因するうつ病を本当に減らせるかどうか疑問視する声が早くも上がっております。特に中小企業では、事務作業が煩雑であることも加わり、導入を見送る企業が少なくないといわれています。とはいえ職場に於けるメンタル不調の問題は喫緊の課題であり、決して先延ばしは許されません。この問題に関しては、日を改めて詳細にお話したいと考えております。
さて例年になく暖かい日が続いていましたが、10日(木)あたりから急に寒くなってきました。九州でも氷点下となった所があり、列島は一気に冷え込んでいます。暖かい日が続いた後の急な寒気は、反動のせいで本当に体に堪えるものです。今年は強力なエルニーニョ現象の影響で暖冬傾向となっており、その傾向は今後も当面続くと予想されていますが、必ずしも暖かく穏やかな冬ではない、ということを肌で実感しています。
実際に、この寒さで風邪をひいた方、体調を崩した方が蒲田よしのクリニックへ何人も来院されました。この温度差で免疫力が低下し、喉などの粘膜が刺激されるため、風邪をひきやすく、また長引きやすくなるのです。一方で胃腸炎も流行り始めており、腹痛や下痢、吐き気などを訴える方も増え始めています。また手足の冷えや倦怠感、肩凝りや頭痛、腰痛などの慢性的な症状を訴える方も後を絶ちません。
前回のコラムでは風邪薬を飲むことにより、かえって風邪が長引いてしまうことがあるとお話しました。風邪を治すために風邪薬を飲んでいるのに、むしろ治りにくくなることが現実には少なくないのですが、それはどのような事情によるのでしょうか。それは一つには、風邪薬が風邪の根本的な「治療薬」ではなく、単なる「対症療法」に過ぎない、という現実があるためです。
例えば一般的な風邪薬には「鎮痛解熱」成分が含まれています。読んで字のごとく、熱を下げて痛みを和らげる効果があります。38度もある熱が下がって頭痛や喉の痛みがおさまると、本当に楽に感じるものです。ところがそれは、発熱や痛みという風邪にまつわる症状を一時的に緩和しているに過ぎず、風邪そのものの治りを早めている訳では決してありません。風邪を治すのはあくまで自身の「自然治癒力」なのです。
鎮痛解熱剤により熱が下がると、その自然治癒力にどのような影響が及ぶのでしょうか。例えば40度の高熱にうなされている方が鎮痛解熱剤を飲んだ場合、熱が下がると汗びっしょりとなり、体がすっかり楽になるでしょう。このような高熱に対して解熱剤を適切に用いることは、あながち悪いことではありません。高熱による体の消耗を防ぎ、自然治癒力の維持に寄与する面もあるのです。
これに対して37度台という微熱の方が鎮痛解熱剤を飲んだ場合、事はそう簡単ではありません。鎮痛解熱剤は強力な体温低下作用があるため、微熱程度の方の場合、体温を必要以上に下げてしまいがちです。そのために時として35度台という、風邪にしては異常に低い体温となります。実際に風邪が治らないという方には35度台という低体温が少なくありませんが、多くの場合、鎮痛解熱剤入りの風邪薬を飲んでいます。
低体温で免疫力が低下する、ウイルス感染症に弱くなる、というのは今や免疫学の常識となっています。鎮痛解熱剤を安易に用いることは、わざわざ免疫力を低下させ、風邪を治りにくくしている側面があるといえます。実際の臨床に於いても、高熱の出る風邪は意外と早く治り、熱の出ない鼻風邪は長引きやすい、という傾向さえ認められます。
それでは風邪を早く治すために、我々は一体どうすればよいのでしょうか・・(不詳)