今回は「貧血はないのに、なぜフラフラするのか?」つまり、多くの女性が見落とされている「鉄欠乏」についてお話しします。貧血という診断はされていないものの、結果的に鉄欠乏と診断される女性が、実はたいへん多いのです。

 

前回のブログでは「食事と栄養の重要性」についてお話ししましたが、特に女性にとって「鉄」は非常に重要な栄養素です。鉄の欠乏症によって心身の状態が悪く、仕事や私生活で大きな制約を受けている女性が、とても多くなっております。

 

私のクリニック(蒲田よしのクリニック)には、内科であるにもかかわらず、うつや不眠、不安神経症、パニック障害、更年期障害といったメンタル不調を抱える女性が多く来院されます。彼女たちの訴える症状は、めまい、立ちくらみ、息切れ、動悸といった体の症状から、不安感、イライラ感、不眠、気分の落ち込みといった心の症状まで様々です。

 

これらの症状の原因としては、仕事や生活上のストレス、具体的には例えば職場の長時間労働やパワハラ、イジメなどがよく挙げられます。ところがクリニックで血液検査をすると、鉄欠乏やビタミンB群欠乏など栄養バランスの乱れが見つかることが、たいへん多くなっています。

 

実際にクリニックへ来院される方が、ウツ症状や不眠、不安感などメンタル不調を訴えているものの、仕事上や生活上のストレスは思い当たらない、などというケースも少なくありません。そのような場合であっても、血液検査では多くの事例で鉄欠乏、ビタミンB群欠乏など栄養バランスの乱れは、しっかりと認められるものです。

 

ところで鉄欠乏は視覚的に「爪」によく特徴が現れます。すなわち爪が薄くなる、割れやすくなる、反り返るといった特徴的な症状が現れることが少なくありません。それから毛髪が細くなる、抜けやすくなる、などの症状が契機となり、発見される事もあります。患者さんをよく観察する事で、鉄欠乏の見落としは減らせます。

 

一方の血液検査では、たとえ血色素(ヘモグロビン)が正常範囲である、つまりデータ上の貧血が認められなくとも、フェリチン(体内の貯蔵鉄量を反映する指標)という項目をチェックすることで、鉄欠乏の状態を把握することができます。

 

具体的には、フェリチン100(ng/ml)以上が適正値ですが、10代中頃から60歳前後までの女性に関して言うと、優に90%を超える方々が、80以下の欠乏症と判定されます。20以下という重度の鉄欠乏も方も多く、中には一桁という極度の鉄欠乏である方も少なくありません。

 

ここで問題なのは、たいへん多くの女性が鉄欠乏であるにもかかわらず、大半のケースで、それが見過ごされてしまっていることです。その理由としては、主に以下の3つが挙げられます。

 

1:多くの医療機関で、ヘモグロビン(血色素)の値だけで貧血を判断している。

たとえヘモグロビン(血色素)値が正常範囲内であっても、フェリチン値が低い、いわゆる「隠れ鉄欠乏」の状態であることが、たいへん多いのです。例えばヘモグロビン12 g/dlの方は正常範囲であり「貧血なし」と判定されますが、そのような方がフェリチン20以下、などという重度の鉄欠乏だった、などという事例は少なくありません。

 

2:検査会社のフェリチン基準値が、実態と合っていない場合がある。

検査会社によっては、明らかな鉄欠乏状態であっても、基準範囲内にあるという理由で「正常」と判定されてしまうことが少なくありません。例えばフェリチン基準値の下限が5 ng/mlに設定されている場合、たとえ10以下という重度の鉄欠乏であっても、正常範囲と判定されてしまいます。

 

3:職場検診では、フェリチンが検査項目に含まれていないことが大半である。

多くの職場健診では、血色素(ヘモグロビン)は必ず検査項目に含まれています。従って貧血の有無は判定対象となります。ところが鉄欠乏の重要な指標であるフェリチンは、殆んどの職場健診で、検査項目に含まれていません。このような事情により、多くの女性の鉄欠乏が見逃されてしまっています。

 

上記3つの理由により、たいへん多くの女性が明らかな鉄欠乏の症状およびデータが存在するにも関わらず、「貧血なし」という事で放置されてしまっています。そして多くの方が、体調やメンタルの不調は「仕事のストレスが原因」とか「職場への適応力の問題」などと片付けられ、本質的な解決のチャンスを逃してしまっているのです。

 

このように鉄欠乏は、女性の心身にわたるパフォーマンスを著しく低下させる要因となります。実際に重度の鉄欠乏を抱えた女性が、心身の不調のために仕事で本領を発揮できない、あるいは体調不良で仕事を休みがちになる、さらには休職や離職に追い込まれた、などという残念な事例が、とても多くなっております。

 

さらにいうと、国際的にも指摘される日本の男女格差の背景には、女性の鉄欠乏が深く関わっている可能性があると私は考えています。すなわち女性の就業率は諸外国にひけを取りませんが、企業で管理職への昇進を希望する女性がとても少なく、企業の取締役に女性が占める比率も先進国で最低レベルです。

 

もちろん女性の昇進意欲を阻害している要因としては、未だに企業や業界に残る男性優位の意識、子育て支援など政策面の不備、家庭に於ける家事分担の不公平性など、様々な要因が挙げられます。そうした中で、克服すべき多くの鉄欠乏が放置されている事も、根深い要因として女性の活躍を阻害している可能性があると考えます。

 

多くの女性が本来の力を発揮し、仕事や私生活などで活躍するためには、鉄欠乏をはじめとする栄養バランスの問題を解決することが、不可欠な取り組みとなっています。つまり鉄欠乏を克服することが、女性の健康と社会全体の発展につながる重要な課題の一つであるといっても過言ではありません。

 

新規情報

  • 貧血(ヘモグロビン値が正常)でなくても、鉄欠乏(フェリチン値が低い)状態である「隠れ鉄欠乏」の存在。
    • 従来、貧血の指標としてヘモグロビン値が重視されてきましたが、それだけでは鉄不足を見落とす可能性があるという点は、新しい情報です。
  • フェリチン値の基準値が、検査会社によって異なる場合があること。
    • 同じフェリチン値でも、検査会社によっては「正常」と判定される場合があるため、注意が必要です。
  • 職場検診では、フェリチンが検査項目に含まれていないことが多いこと。
    • 多くの女性が、職場検診で鉄欠乏を見過ごされている可能性があります。

 

うつゼロドットコム YouTubeページ
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